サントリーでエミール・ガレ

+エミール・ガレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガレ、特別に好みというわけではないですが、居心地の良い美術館なので、涼みがてら見てみるか〜ぐらいのノリで出かけ、あまりの強烈さにハマってしまいました。

かげろうをモチーフにした美しいグラデーションの花器、見事なフォルムのグラス類と、様々あるわけですが、強烈に焼き付いてしまうのは、やはり虫の生き埋めにしか見えない脚付杯「蜻蛉」、異様にリアルな蛾が張り付く昼顔形花器「蛾」、花器「おたまじゃくし」などの作品群でしょうか。飾り棚「森」の、高い位置に着く飾り板にはみっしり蜻蛉が彫られていました。フォルムで好きだったのは「茄子」。上部がちゃんとヘタになっているのにスマート。血と墨汁が混ざったような色合いの栓付瓶「蝙蝠」なんてのもパンチがありました。ご本人の意図ではないでしょうが「あぁ、きれい〜」と素直に言わせてたまるかっ!というようなところが、大変面白い。

もうひとつ魅かれたのは、日本画でよく表現される「時間の経過」、春夏秋冬の移り変わりが同じ平面に描かれたり、河を下りつつ時が流れる様を巻物で見せたりする方法を、ガラス器の上でやってしまうのだなと。「おたまじゃくし」は成長過程を見せており、ひとよ茸ランプは、一晩で形状が変わっていく様を描き、カトレアは裏側に枯れた花が配置される。なんか映画的です。

「エミール・ガレ」 サントリー美術館 2016年6/29〜8/28

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モヒカン故郷に帰る

+モヒカン「この監督さんは映画館に足を運ぶ!」の一人、沖田修一さん作品。テアトル新宿に2度通ってしまいました。

売れないメタルバンドのボーカル・永吉は、ネイルの仕事をする彼女に食わせてもらっていますが、できちゃった婚の報告に、実家に帰らねばならなくなる。故郷は広島の離島、戸鼻島。7年ぶりに戻った息子に、父さんは怒鳴り散らすも、やはり嬉しくて大宴会。その夜倒れて病院に運ばれ、末期の肺がんで余命宣告を受ける。筋立ては「泣きのホームドラマ」にピッタリですが、そこは沖田監督。島のの〜んびりした時間の中でクスクス笑わせ、所々でホロリとさせる、絶妙の構成を見せてくれます。

キャスティングが良い! カープ命のもたいさん母さん大好きです! 柄本さんも、幼なじみの医者・木場さんも、父さんが顧問を務める吹奏楽部の清水さんも野呂君も、担当の看護士さんも、良い顔してます。

ラスト、父親に結婚式を見せようと病院の中で式の準備をしますが、嵐で船が来ず、肺炎患者の修道女さんが神父代行する混乱ぶり、その途中で父さんは発作を起こし、大騒ぎでベッドを治療室に運ぶうちに、勢い余って皆が手を離してしまい、ベッドが独走して壁にガラガラドッシャーン、なんて最期で、これっぱかしもしんみりさせてくれません。素晴らしいです!(笑

戸鼻島(とびしま)は架空の島ですが、ロケは瀬戸内の下蒲刈島・上蒲刈島・豊島・大崎下島の4島で行われたそうです。豊島は、数年前に2年連続で旅したなぁ。また行きたくなりました。
「モヒカン故郷に帰る」 2016 監督=沖田修一

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竹橋で安田靫彦

+安田靫彦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竹橋・近代美術館は、神楽坂からとても出やすいのでよく行きます。
いくつかの作品は常設では見ていましたが、まとめて見ると本当に面白いです。初期は描き込みも多く立体的ですが、途中からどんどん構図がシンプルにフラットになって、色の透明感が冴えてきます。「黄瀬川陣」頼朝の敷物や「飛鳥の春の額田王」のショール・建物屋根の冴えた青磁色(エメラルドグリーン?)、卑弥呼のバックの燃えるようなオレンジなど、絶対に印刷では出ないだろうな〜などと。

それと同時に、着物柄に尋常ではない執着が… 大作を前に、着物柄にばかり感心するのもいかがなものかと思いますが、正直、見ていて楽しいもので。隣で見ていた老夫婦の旦那さんが「この人、次はどんな着物を着せようかなって、さぞや楽しかろうねぇ…」と。「同感!」と思ってしまいました(笑

お目当ての「飛鳥の春の額田王」が後期だったので、奥村土牛につづいて、これも2回見てしまいました。安田靫彦は、ほとんどが掛け軸と屏風絵なので、土牛の方がずっと現代の作家と思ってしまいましたが、1884年と1889年なので、たった5歳しか違わないのが少々意外。

「安田靫彦」 東京国立近代美術館 2016年3/23〜5/15

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山種で奥村土牛

+奥村土牛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

念願の奥村土牛です。
竹内栖鳳・横山大観・菱田春草と、まとめて見てみたい日本画を、ここ数年で次々に見ることが出来て、残すところこの人!でしたが、やっと見ることが出来ました。
思えばドラマ相棒season11-第2話で、甲斐峰秋が杉下右京と待ち合わせるのがこの山種美術館。「僕はこの『輪島の夕照』が好きでねぇ…」のセリフと、右京のバックには土牛の「鳴門」が。あっ奥村土牛が見られるのか?!と、大慌てで検索するも、ドラマ収録は2ヶ月は前ですから当然終わってました… 残念。待つこと3年半、ようやくお目見えです。

母がこの人を好きで、13〜4歳のころにいくつか本で見たりはしていましたが、「閑日」「踊り子」など、あの透視図法無用の独特の構図や平坦さがピンとこず、あまり上手じゃないのでは??などと。あ〜、なんてバカな私、センスのない中坊な私、と後年自分で自分にガッカリした次第(苦笑
展覧会場冒頭の「醍醐」、京都醍醐寺の枝垂れ桜を描いているのですが、ふんわりとした淡いピンクの美しいこと。一緒に見ている方々も、揃ってホゥ〜とため息をつく感じ。「鳴門」のうず潮も、勇壮ですが色はやはり優しい。抹茶のような淡い緑に、バックの島影は金色。かと思えば「閑日」の猫の座布団の真っ赤や、芥子、木蓮の、吸い込まれるような深い赤紫も。

始まってすぐの3月に行きましたが、どうしても見たかった絵が後期だったので、2度行ってしまいました。広すぎず狭すぎず、観覧客が好きな絵を何度も見返す感じが、この美術館の心地よいところです。

「奥村土牛」 山種美術館 2016年3/19〜5/22

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岸辺の旅

+岸辺の旅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒沢清さんはご贔屓の監督なので、「人間合格」以降全て映画館へ出かけます。前作「リアル〜完全なる首長竜の日〜」が全く波長が合わず残念に思っていたら、今回の作品はガツンとハマりました。

夫・優介が失踪して3年。瑞希(深津絵里)はピアノ教師として生計を立てつつ、一人静かに暮らす日々。夫の好物だったであろう、黒胡麻餡入りの白玉ダンゴを作っていて、ふと気配に振り向くと、コートに靴のままの優介(浅野忠信)が、まるで部屋の隅から滲み出たように立っています。「俺、死んだよ」と一言。死者である彼に「白玉食べる?」と瑞希。
ここまでたどり着く途中で世話になった人々を訪ねたり、美しい風景を見せたいと言い出す優介に合わせて、夫婦で旅をすることに。死者だから、夫・優介は妻の瑞希にだけ見えるのかと思ったら、いきなり駅員さんに行き方を訪ねるのでビックリ。

最初に訪ねる新聞販売店の島影さんは死者、次に訪れる小さな食堂の夫婦は生者ですが、奥さんが30年も前に10歳で亡くなっている妹に囚われている。3番目は山奥の村、世話になった村のまとめ役の柄本明は、亡くなった一人息子の嫁が死者だと思っている…と、もう誰が死者で誰が生者なのやら訳が分かりませんが、そこが不思議に面白いのです。

ホラー的な表現も多く、「LOFT」「叫び」「降霊」に共通する「何かがいそうな気配」が随所に。人のバックで、外からの光がカーテン越しにゆらゆらするだけで、もうゾクッときます。鈴虫の泣くような効果音とともに光が落ちると、自分の周りの温度が少し下がったような気さえします。

最後に海辺で、消えてしまいそうな優介に瑞希は「うちへ帰ろうよ。一緒に帰ろうよ」、でも彼はただただ「謝りたかった」というばかり。アップからロングに切り替わると、もう彼はいなくなっている… この素っ気なさが良いです。

今回少々引っかかったのは、音楽が過剰過ぎること。これは、プログラムのインタビューによれば「メロドラマなので、これでもかというぐらい音楽で盛り上げたかった」とのことらしいですが、個人的には抑えてほしかったです。

「岸辺の旅」 2015 監督=黒沢清

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おいしい映画 その5 シェフ

+シェフ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月初旬にシャンテに見に行って、あまりにも美味しそうなので、早くもう一度見たくてDVDを購入。緊縮財政につき、基本的にはWOWOWを待つのですが、今回は放映を待ちきれませんでした。

LAの高級レストラン「ガロワーズ」シェフ、カール・キャスパーは、人気フードブロガー、ラムジーに「古くさい」と酷評され、新しいレシピで再挑戦するも、ガチガチの保守派オーナーがそれを許さず、大げんかして店をやめてしまいます。
元妻の気遣いで、料理人としての出発点・マイアミでフードトラックを調達、離婚以来、きちんと向き合わなかった息子と、「ガロワーズ」のスー・シェフの地位を捨ててマイアミへ駆けつけてくれて後輩マーティンと、フードトラックでキューバ料理の移動販売をしながらLAまで戻る、ひと夏のロードムービーです。

監督・主演のジョン・ファブローのふっくり肉厚な手が、料理人にピッタリ。フード・ブロガーのラムジーにオリバー・プラットと、これもハマり過ぎ!なキャスティング。あとは、アイアンマンの監督だけに、ロバート・ダウニー・Jr.やらスカーレット・ヨハンソン、ダスティン・ホフマンと、ちょいと顔を出す顔ぶれも豪華。

そして何より贅沢なのが、胃袋を刺激するレシピの数々。レストランのホール・チーフで、今カノのヨハンソンに作る、オリーブオイルときざみパセリたっぷりのペペロンチーノ(ニンニクの天ぷらかって勢いの油の量!)、丁寧に焼き色を付けるクロック・ムッシュ、美味しそうなハムとチーズをたっぷり挟んで両面焼き器でこんがり焼くキューバサンドイッチ、丸一日かけて炭火で牛肉をスモークするブリスケット、今すぐ何か食べたい!という気分になるのは、アメリカ映画としてはかなり珍しいのでは、と。(思いつくのは「ディナーラッシュ」のお父さんの店のまかないイタリアン、「ジュリー&ジュリア」の手作りフレンチぐらいでしょうか…)

もう一つの見所は、10歳の息子が完璧にツイッターを使いこなすところ。フードトラックに戻ったら、まだ店を開けてもいないのに行列ができていて、カールが「なんで??」といぶかると息子パーシーが「ツイッターにジオタグ付けといた」「ジ…ジオ、何?」多いに笑えるシーンですが、私は笑う立場にはありません(苦笑  そもそも、ツイッターやったことありませんし…

「おいしい映画」は、繰り返し見るほうなので、これもその一本になりそうです。

「シェフ」Chef 2014 監督=ジョン・ファブロー

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これからの美術館事典

+美術館事典

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く、紙を選ぶ仕事から離れていたら、ずいぶんと紙の業界も様変わりしており、用紙のリサーチのため、久しぶりに竹尾「見本帖」神保町本店へ。
曇天だったので出かけたものの、店を出る頃にはすっかり晴れて、ほとんど日陰のない炎天下の大通りを竹橋まで歩くうち、どうしてもどこかで涼みたくなり、近代美術館へ。

実はこの「これからの美術館事典」2回目です。
A〜Zの単語に沿って並ぶ作品は、A…Architecture(建築)で、グラフィックデザインの大御所、原弘、早川良雄お二方の美術館開館ポスターに始まり、L…Light(光/照明)で、光源の工夫やモネ、ルノワールの絵画、S…Storage(収蔵庫)で、国立美術館4館で、藤田嗣治の作品がどのように収蔵されているか見せて、最後はZ…Zero(ゼロ)で、展示中の作品の梱包用品がうわ〜っと積まれて終わり。

モネもセザンヌもデュシャンもベーコンもスタイケンも、全部ひっくるめて少しずつ見られる、特大の幕の内弁当のような趣。竹橋・近代美術館は、ここしばらくジャクソン・ポロック、フランシス・ベーコン、竹内栖鳳、菱田春草と、大型回顧展で圧倒されましたが、こんな構成も、また楽しいものだなと思いました。

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小豆島・犬島・豊島の旅 2013

+瀬戸内アート-犬島

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月31日から9月2日にかけて、また2泊ばかり小豆島へ行ってきました。
昨年も豊島を訪れましたが、今年は「瀬戸内トリエンナーレ2013」の年なので、船の便も島のバスの本数もずいぶん増えているようです。昨年、ガツガツ余裕なく動き過ぎた反省から、今年はゆ〜〜っくりが目標だったのですが、行くとやはりあれもこれもという欲張った気持ちに…

今回の一番の目的は犬島「精錬所美術館」。1909年に建てられ、たった10年間で閉鎖された煉瓦造りの銅の精錬所を、部分的に生かしつつ美術館に仕立てています。中の柳幸典作品だけでなく、この建物自体が「巨大インスタレーション」な風情。聳え立つ赤茶色の煙突に蔦が這い上る様など、息を飲む美しさ!
そして、この島のもう一つの見所は「家プロジェクト」。直島でもこのプロジェクトをやっていますが、今も住人が生活する街のあちこちに、A邸、F邸、S邸と称して、家屋を生かしたもの、更地にして展示空間を作っているもの取り混ぜて、7点の作品群が点々と散らばります。歩いて廻るのに丁度良い距離。台風とかぶっていたので、曇天で歩きやすかったものの、油断して足に日焼け止めを塗りそびれたら、後でサンダル履きの足首周りが真っ赤な火傷状態に! 島の紫外線恐るべし。炎天下ならば、完全装備が必要かと。
個人的に可笑しかったのは、ある作品のはす向かいに、自由参加しているおじいさんがひとり。アートのひとつなのかと小屋の入っていくと、農機具や玉ねぎが散らかった小屋におじいさんが座っていて、その昔「西武警察(懐かしい!)」のロケが訪れた折に撮った渡哲也、舘ひろし(皆若い!)のスナップと、ついでに自慢の鯉をお披露目。トリエンナーレとは何の関係もないのですが、楽しそうなのでまぁお祭り的で微笑ましい。

前日から船のタイムテーブルとにらめっこして、昼過ぎにはせかせかと豊島へ。昨年は東寄りの唐櫃港から入って「ボルタンスキー」「豊島美術館」を見て廻りましたが、今年は西寄りの家浦港から入って、足で歩ける範囲を4件巡りました。
まずは「豊島横尾館」。普通の家並みの中に、いきなり黒壁と赤いガラスの建築物が。サイロのような黒いドカンとした筒状建物が横にくっついて「これ何?」な感じです。倉・母屋・庭園・納屋と一般家屋だった頃の構造を生かしつつも、庭石は赤と黒だし、母屋の床はガラス張りで、足の下を池と赤石・黒石と、ついでに鯉が泳ぐ異次元さ。筒状建物の中は、壁をぐるりと、夥しい数の世界の滝名所ポストカードが整然と埋め尽くし、天井と床が鏡なので、その滝のカードが、延々と奈落へ落ちていくような幻惑。横尾さんはポスター時代の方が好きで、絵にあまり興味はないんですが、美術館全体はまさに「これ何?」なカオスで、結構楽しかったです。
港に面した「トビアス・レーベルガー」。二階建ての家屋の内部が、壁面、椅子、テーブル含め丸ごとポップな黒白ストライプ作品で、カフェになっているので見晴らしの良い2Fのテーブルで一休み。コーヒーもなかなか美味。居心地の良いアートでした。

たくさんの若い人たちが、全品鑑賞できるパスポートを首から下げて見て廻っているのには感心しました。美術鑑賞はともかく、島の移動は全て船で、フェリーでも¥700前後、高速艇ならば(時間は半分)¥1,000〜¥1,200と、それを何度も乗り継がねばならず、決して節約旅行は出来ない事情があります。自分の学生時代ならば、この美術旅行は無理かなぁとも。

いりこで有名な伊吹島にも行ってみたかったのですが、かなり離れているので今回は断念。でも、高松空港経由だったので讃岐うどんを賞味、小豆島の朝ご飯で出たもろみや佃煮が美味だったので土産に買って帰り、楽しい旅となりました。

+瀬戸内アート-豊島

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この役者を見る!:1 アンコール!!

+13-0714-アンコール!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはもう、ご贔屓のテレンス・スタンプを見たいが為に、シャンテに足を運びました。

「フル・モンティ」がヒットした前後、「スナッパー」「ブラス!」「マイ・スイート・シェフィールド」「リトルダンサー」「リトル・ボイス」少々とんで「キンキーブーツ」と英国の小粋な作品をずいぶんと見る機会はあったのですが、久々にそんなテイストの作品を堪能できた感じです。

常にへの字口のアーサーと、癌が再発してさえも好きなコーラスに通って前向きな妻のマリオン、一人息子ジェームズは、どうも父親とは完全に深い溝があり、ジェームズの小学生くらいの娘は出て来るけれど妻は一切出て来ないところを見ると、別れたか?とか。日常レベルの説明は省かれていて、生活レベル等はパンフレット頼み。家屋は典型的な中産階級の公団住宅だそうなので、まぁお金持ちではないけれど、なんとか暮らせる高齢の人々のサークルなのかな、と思いつつ見ておりました。

キモはやはり、二人のベテラン役者の独唱でしょう。ヴァネッサ・レッドグレーブは「TRUE COLORS/トゥルー・カラーズ」を、テレンス・スタンプは「LULLABYE/GOODNIGHT,MY ANGEL/眠りつく君へ」を丸ごと一曲ソロで歌うシーンがあるのです。スゴい歌唱力!というわけではないのですが、恐ろしく説得力があるというか… 掴まれてしまうんです、気持ちを。歌って不思議です。
コンクールに出場すべく、サークル仲間がマイクロバスを仕立てて駆けつけるも、聖歌隊が中心の合唱コンでは彼らはあまりに破天荒で、エントリー不可となるのですが、アーサーがど〜〜しても歌いたいと言い出し、勝手にステージへ出て行ってしまいます。それに続いて、指導者のエリザベス、コーラスの仲間がどんどんステージへ出てしまい、主催者は収集がつかなくなり仕方なく歌わせるハメに… の件は大変笑えるんですが、ここからの彼の独唱が見物。もともとテレンス・スタンプのちょっとくぐもった声は好きなのですが、ラスト、歌い終わってホロリと涙を見せるところはもう、やられてしまいますね。
スタンプさま、長生きして下さい。

「アンコール!!」SONG FOR MARION 2013 監督=ポール・アンドリュー・ウィリアムズ

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イノセントガーデン

イノセントガーデン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミア・ワシコウスカが、淡い黄色のワンピをヒラヒラさせて庭を駆けて来る冒頭は、なにやらファンタジックですが、その日18歳の誕生日に父親が事故死、その葬式に、会ったこともない父親の弟・チャーリーが現れて、その日から、昔を知る家政婦の女性が消え、忠告に訪れた叔母が消え…。

ストーカー邸は、全体に壁も扉も緑基調に作られていて、キャストの服も上手くそれに溶け込むように準備されており、スチール写真のどれを取っても完璧な色構成です。柔らかな光に包まれた広大な庭も夢のように美しい。そして物語は「呪われた血統の目覚め」みたいな… ドロドロ…
パク監督作品「オールドボーイ」「親切なクムジャさん」のストレートな血なまぐささはないものの、ウルトラクローズアップや、ある種の音を極端に強くして、気持ちよく見たいこちらの感覚を悉く崩してくれます。
足を這い回る小さな蜘蛛のグロテクスなほどのアップ、インディアがゆで卵の殻をテーブルに押しつぶしてむく時の、グジャリという嫌な音。乱暴しようとした男友達を、叔父と一緒に始末して戻ったインディアが風呂に入るのですが、体に付いていた土くれや枯れ枝がバスタブの湯に浮くシーンもえぐいです。

残酷な描写はないのに強烈に怖かったのは、ストーカー家の3兄弟がまだ幼かったある日の回想。インディアの父親リチャードがまだ14〜5歳でしょうか。芝刈り機かなにか、機材の調子を見ている間、6〜7歳の次男チャーリーと、小さな3男は砂遊びに夢中。次男チャーリーは何やら大穴を掘っています。すぐ側で、幼い弟ものどかに遊んでいる。リチャードがしばらくして戻ってみると、穴は埋められていて、チャーリーがその上で満足そうに寝転んで、手足で砂をなでている、そして側にいたはずの3番目の幼い弟がいない… 柔らかな光の中、終始美しい映像で語られる残酷なこのシーンにはゾッとしました。
マシュー・グード演じるチャーリーが、まるで「悪の教典」のハスミンみたいです。貴志祐介の小説に、先天的に善悪・他者への共感が欠如した人物がよく出てきますが、チャーリーがそんな人物。全く無感情に、邪魔な人物を淡々と消していく気味の悪さが、端正な顔と合っていて上手いキャスティングだなと思いました。

「イノセントガーデン」STOKER 2013 監督=パク・チャヌク

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