大鹿村騒動記

ご贔屓の阪本監督作品なので、封切りを楽しみにしていました。今回の作品は1000円均一だそうで、知らずに出かけたので、ちとうれしい。
原田芳雄、岸部一徳、大楠道代、佐藤浩市と、阪本映画では何度もお目にかかる役者陣に加え、これもよくコンビを組む撮影・笠松則通の映し出す11月の大鹿村の紅葉。
「どついたるねん」「王手」「傷だらけの天使」「愚か者」「顔」と笑える作品は少なくないですが、それでもどこかに情念のような重い影があるいつもの作りと異なり、今回ばかりは楽しい明るい仕上がり。駆け落ちで、18年もいなくなっていた妻と親友の帰還なんて、いくらでも「情念の世界」になりそうですが、あえてそこは削ぎ落とした感じ。
その代わりに、芸達者な役者陣が、各シーンをそれぞれの個性で楽しませてくれます。岸部一徳は最初から最後まで情けないし(官房室長ですのに…)、認知症になりかけている大楠道代が、お店から塩辛の瓶を取ってきてしまうシーンは、なんだか少女のよう。石橋蓮司、小野武人、でんでん、小倉一郎と、いい大人がみな、野っ原を駆け回った延長線上で、玄ちゃん、善ちゃん、オサムちゃんです。岸部、でんでんのお二人は、ケツまで見せてくれます。
そして最後の大鹿歌舞伎にも力が入ります。850人の観客は、地元を中心に各地から集まったエキストラの方々で、声援も手慣れたもの。芝居の途中でもかけ声、役者にぶつけかねない勢いでおひねりがブンブン飛びます。
最近、DVDで「魂萌え」「新・仁義なき戦い」を見直し、メイキングで監督が、立ち位置からタイミングまでかなり細かな指示を出しているのに驚きましたが、今回は、多忙な面子を長野の山奥にとどめておけるのはたった2週間だったそうで、ほとんどが一発勝負とか。心がもう、5日先の本番に飛んでじゃっている慌ただしさが出ていておもしろかったです。
と、これを書いている最中に、ネットに原田芳雄さんの訃報が。
あぁ、まだまだ見ていたい役者さんだったのに。残念です……

『大鹿村騒動記』阪本順治

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