おいしい映画 その2

おいしい映画、第二弾です。

これも、食の映画のお約束ではありますが「南極料理人」(沖田修一監督)。
料理人西村(堺雅人)が、南極基地で調査団と過ごす1年ちょっとを、限られた食材で工夫を凝らして作っていくお料理物語なので、全編美味しそうですが、特に好きなシーンは「美味しいおにぎりとアツアツの豚汁」。予告で使われたこのシーンが見たくて、映画館に出かけたようなものです。
冒頭の食事シーンでも、律儀におかず、ご飯、おかず、ご飯と食べていくヤツ、食べないうちから、いきなり醤油をダボッとかけるヤツ(私の亡父がダボッと醤油派でした)、あらゆるおかずを全部ご飯の上に乗せて、丼ものにしてしまうヤツ、と可笑しいです。

それから、繰り返し何度も見てしまうのは「刑務所の中」(崔洋一監督)。ガンマニアの漫画家・花輪和一が、趣味が高じて銃を改造しすぎ、銃刀法違反で有罪になってしまい、塀の中での淡々とした生活(特に3度の食事!)を克明に描いたマンガが原作です。主人公ハナワの山崎努、5人部屋のお仲間は香川照之、松重豊、田口トモロヲ、村松利史という面子ですが、皆の一番の楽しみは、やはり3度のメシ。特にハナワのお気に入りは、麦3白米7の割合のご飯。春雨のスープ、エビの甘い佃煮、マグロフレークと、シャバで好きなものにありつけるこちらとしては、特にうらやましいメニューでもないのですが、5人があまりにもおいしそうに食べるので、繰り返しDVDを引っ張り出してしまうわけです。
後半に、受刑者みんなが楽しみにしている「間食」の話が出てきます。月に6回、作業の合間の間食(おやつですね)、なかでも特に楽しみなのが「パン食」だそうで、かつて給食でおなじみだったコッペパン、りんご、缶詰の桃の角切りやぶどうなどが入ったフルーツカクテル、甘い小倉小豆、そしてマーガリン。昔の「献立に失敗している給食」のような取り合わせで、うまいか?こんなもん、なのですが、画面の中の皆様が、これまた実に幸せそうに食べるので、うらやましくなります。

DVDを購入したくも、長らく絶版で手に入らなかった「愛の新世界」(監督-高橋伴明)が、HDリマスター版で売り出されていて、久しぶりに見直しました。
この作品も、好きな場面に食べるシーンがあります。主人公レイ(鈴木砂羽 劇団員ですが、喰えないのでSMの女王さまで稼ぎます)とアユミ(片岡礼子 ホテトル嬢、眉毛の太さと服装にまだバブリーな時代のにおいが)が、同じ劇団仲間がバイトする焼き鳥屋で、ものすごい量の焼き鳥を平らげていくシーン。お二人の脱ぎっぷりもすごいけど、喰いっぷりも良し。

「人のセックスを笑うな」(井口奈巳監督)で、美大生のえんちゃん(蒼井優)は、みるめ君(松山ケンイチ)が好き。でもみるめ君はリトグラフ講師のユリさん(永作博美)が好き。ユリさんは人妻なのになんで…とえんちゃんは面白くないんですが、彼女にグループ展の招待を受けて、ついつい会場へ行ってしまう。ギャラリーというのは、親しい人間でも誘わない限り居場所が無いのが相場。で、えんちゃんは入り口近くにあるお菓子の盛り合わせに手を伸ばす。そのうち、大皿を抱え込んでお菓子をモリモリ食べ出します。この映画、全編長廻しが多用されていますが、ここも結構長いシーンで、居心地の悪さがよく出ていて、妙に微笑ましく印象に残るシーンでした。

「転々」(三木聡監督)では、両親を早くに亡くし、天涯孤独の主人公の文哉(オダギリジョー)が、サラ金の借金を返せず、風変わりな取り立て屋・福原愛一郎(三浦友和)に取り立てを食らう。オレの東京散歩に付き合うなら借金はチャラ、といわれ、吉祥寺から桜田門へ向けて珍道中が始まります。なぜ桜田門かというと、福原は「妻を殺した。自首する前に妻と歩いたように散歩をしたい」のだと。嘘か真かわからないまま、中央線沿いに歩く二人が、途中で寄る店の「愛玉子オーギョーチー」が涼しげで美味しそう。
浅草の方まで出向いて、以前福原が、レンタル家族の夫婦役を演じたことのある麻紀子(小泉今日子)の家を訪ね、居合わせた彼女の姪っ子と、まるで4人家族のように数日間食卓を囲み続けます。別れ難くなってくる文哉。でも福原は、自首する前の最後の晩餐はカレーと決めていて、ある夜、皆で楽しくカレーを囲みますが、文哉は明日が桜田門、お別れの日だと悟って、涙のカレーライスになります。美味しくも物悲しい、いいシーンです。

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