おいしい映画

久しぶりに、DVDで「ジョゼと虎と魚たち」(犬童一心監督)を見直して、作品も良いのですが、これって食べるところが本当に美味しそうな映画だと再認識しました。
雀荘でアルバイトする恒夫(妻夫木聡)は、早朝、店長の犬の散歩に出て、ひょんなことからおばあちゃんとジョゼ(池脇千鶴)を家まで送ることに。朝食を食べていけと言われるも、妖怪じみたおばあちゃんと、ニコリともしないジョゼに、出されたごはんに箸をつけるのも恐る恐る… で、まずお味噌汁。美味しい! わかめを啜り込んで、次にヌカ漬け、ダシ巻き卵と、次第にガツガツ食べるスピードが上がる。足しげく通うとようになると、彼の実家から送ってよこす、いつもは見向きもしない野菜などを、せっせとジョゼの家へ運んで、お煮染めなどにありつく恒夫が可笑しいのです。

「ジョゼと虎と魚たち」と同じ犬童監督の「メゾン・ド・ヒミコ」でも、主人公の沙織(柴咲コウ)が訪ねるゲイの老人ホームで、各自が好きなものを持ち寄っていただく日曜日のランチの、ずらりと並んだ料理の数々は美味しそうでした。

そういえば、ここ10年ぐらいの間に見た映画で、食のシーンが印象的な作品は何だったろうと考えました。
フードコーディネーターの飯島さんらが有名になられて、食の映画は注目度が高くなりましたが、作品も込みで好き!となると、しぼられてきます。

食の映画のお約束ではありますが、やはり「かもめ食堂」(荻上直子監督)はおいしい映画ですね。この作品は、作っているシーンが好きです。生姜焼き定食の色よく焼けてきた豚肉に、合わせダレをじゃっと廻しかける、揚げ鍋の中でチンカラチンカラ音を立てているトンカツを取り出して、まな板の上でサクッサクッと切り分ける、シナモンロールを作っていくシーンも、ず〜っと見ていたい気分になります。

それから「おくりびと」(滝田洋二郎監督)。これは、まずフグの白子でしょう。
主人公の大悟(本木雅弘)が納棺師の仕事を辞めたいと言いに、会社の上の階にすんでいる社長(山崎努)を訪ねていくと、丁度食事の最中。一緒に食べようと誘われ、席に着くと、何やら白い(モッツァレラチーズそっくり)ポテッとしたものを網で焼いている。「我々はこうして、命を食べて生きている。で、食べるならば美味しい方がいい」とかなんとか言いつつ、焼けたそれを、山崎努がそれはそれは美味しそうに食べるのです。早速ネットで調べてしまいましたが、フグの白子は有名な珍味なんですね。お取り寄せで、たくさん出てきました。
この場面のすぐ後にも、クリスマスイブに、社長、主人公、事務の女性(余貴美子)と3人で、フライドチキンをガッフガフ食べるシーンがあります。チキンの骨が、籠にポンポン放り込まれていくのも、豪快です。

昔の作品になりますが、小津安次郎「麦秋」にも美味しそうなシーンが。引出物でいただいたショートケーキがおいしかったので、義理の姉の史子(三宅邦子)が主人公の紀子(原節子)に、今度買ってきてと頼みます。丸の内勤めの原節子が、銀座でホールごと買ってくる立派なショートケーキ。モノクロ映画なので、イチゴの色もわかりませんが、丁度隣のやもめ男性がやって来て(紀子は周り中から、結婚相手の世話をやかれますが、誰も考えもしなかったこの子持ちのやもめ男性と結婚することになるお話)3人で、大きく切り分けたケーキを、ちゃぶ台を囲んで食べるシーンがおいしそうなんです。やもめ君「いや〜、豪勢だなぁ。お宅じゃちょいちょい、こんなの召し上がんですか?」なかなか食べ進まない史子に「食べないなら僕いただきますよ」「食べるわよ!!」の掛け合いも笑います。

あぁ、「美味しい映画」って、思い出すだけで楽しいです。

 

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