哀しき獣

シネマート新宿で「哀しき獣」を観てきました。
韓国映画で、いそいそ映画館にも出かけてしまうのはポン・ジュノ監督だけなのですが、週刊文春のシネマ評が、揃って「猥雑さと殺気が全編に瀰漫」「執拗さに脱帽」「異様な怪力に驚嘆」と、一様に「強い衝撃を受けた」感が滲み出ていて、無性に見てみたくなりました。

中国に朝鮮族自治区があることを、始めて知りましたが、その自治区・延辺に住むタクシー運転手のグナムは、ソウルまで出稼ぎに行く妻のビザのために6万元の借金をしますが、妻からの連絡は途絶え、借金を返すために賭け麻雀をして、さらに借金を増やすことに。表向きは商人のミョン(裏は請負殺人、密航、なんでもする闇組織の親分)から、借金チャラの替わりにソウルで人を一人殺せと持ちかけられます。
失踪した妻を捜したいグナムは、殺人を請け負い、密航でソウルへ行きます。この密航のシーンもリアルで、暗い寒い湿った船底に詰め込まれた密航者十数人は、途中からいやな咳をし出し、ソウルに到着した頃には、体力のない女性がひとり息を引き取っている、船員はこれを、ズタ袋でも捨てるようにボチャンと海に捨ててしまいます。
ソウルで、ターゲットを殺す機会を待ち、決行!という日に、殺しを請け負った別の2人が現れ、しかもターゲットが体育大教授で滅法強く、相打ちになり、グナムが何もしないうちにあたりは血の海に。なぜ二つの殺人がかぶったのかも分からぬまま、居合わせた彼が犯人として追われる身となり、怒濤の逃亡劇になります。

ターゲットを狙ったもう一方は、ソウルの実業家テウォン(裏の顔は、これも闇組織社長)とその一味で、ミョン、テウォン、警察から追われる身となった上に、帰りの船が用意されていないことで、捨て駒にされたことに気づき、とにかく逃げまくるグナム。
途中からは、闇組織同士の殺し合いまで始まり、しかも、裏社会の抗争ならば銃でしょ、と考えますが、全員刃物なんです。短刀と斧! これは大映の時代劇か??というほどの切り合いです。キツくて見られないシーンもありましたが、皆、あまりにもしぶといので、感心しきり…

結局この凄惨な殺戮劇の原因は、実業家テウォンの方は「奴に愛人を寝取られた」、ミュンの方は、ある銀行員が「教授の美人妻を我がものにしたいから夫を殺してくれ」の依頼。飽きれるほど単純な痴情のもつれだとグナムが突き止めた時には、もう全員が殺し合いで死んでおり、最後は漁船の中で彼も…。
救いがない物語ではあるのですが、でもこの迫力には脱帽です。

「哀しき獣」The Yellow Sea 監督=ナ・ホンジン 2010年

カテゴリー: 映画 パーマリンク