幕末太陽伝

テアトル新宿で「幕末太陽伝」を観てきました。
この作品、かなり昔に並木座か大井武蔵野館かフィルムセンターで観て、あんまり面白いのでDVDも買い、それでもデジタル修復版を劇場で観られるのがうれしくて出かけてしまいました。

オープニングは、国道をブンブン車が行き交う現在の品川の映像、そして舞台となる文久2(1862)へ遡ります。でも、映画が製作されたのは1957年、「現在の品川」自体が55年も前なので、ソニー、キャノン、プリンスホテルが林立する今の品川に、かの映像の面影はありません。
東海道品川宿の遊郭「相模屋」で、呑めや歌えの大尽騒ぎをした佐平次、挙げ句に持ち金がないから働いて返す、とケロリと居座ってしまいます。口八丁手八丁で客をあしらいチップを巻き上げ、算盤を弾き、達筆なので起請文の代筆の内職まで始める始末。その佐平次をフランキー堺が演じますが、とにかく身軽なんです。切れが良く、ダンスでも踊るかのように、お盆に徳利乗せてあっちの部屋こっちの部屋と飛び回ります。
他にも、こはる(南田洋子)とおそめ(左幸子)売れっ子二人の、つかみ合いの大喧嘩もド迫力の躍動感。中庭での乱闘から、カメラが引くと今度は2階で第2ラウンドと、これも美人の女優さんお二人がよく動きます。

画面のあちこちに動物がいるのも楽しい。路地裏で立ち話する男たちの足下に犬がうろちょろ、鶏がうろちょろ、夜番で居眠りする若い衆の膝には猫がいて、宿屋のボンクラ息子と女中おひさが、駆け落ちしそびれて押し込められた座敷牢の木枠には、そこここに鼠がちょろちょろ。皆等しく「生活してます!」という感じがとても可笑しいのです。

底抜けに明るい佐平次ですが、実は肺を患っていて、タチの悪い咳をしつつ薬を常用しています。以前この作品を観た時は、余命が長くはない主人公のお話として、物悲しい印象を残したのですが、デジタル修復で画面がガラリと明るくなったためか、主人公は絶対死なないような気がし出しました。

「地獄も極楽もあるもんけぇ! 俺はまだまだ生きるんでぃ!」の名文句を残し、ラストは軽快なトランペットの音色とともに、海岸沿いの道をどこまでも突っ走って去っていきます。かぁ〜、面白かった! という終わり方なんですね。
監督はこのラストシーンを、時間を飛び越えて現在の品川まで走らせようか、最後まで迷ってやめたそうですが、もうひとつのエンディング、見てみたかったなぁ…

「幕末太陽伝」 監督=川島雄三 1957年

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